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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)4860号 判決

原告 株式会社千代田組

右代表者代表取締役 草野吉浩

右訴訟代理人弁護士 岡安秀

同 宇都宮健児

被告 半沢栄策

右訴訟代理人弁護士 村瀬統一

被告 油田孝逸

同 内藤春雄

右両名訴訟代理人弁護士 笠井盛男

同 松本昭幸

主文

一  被告半沢栄策、同油田孝逸は原告に対し、各自金六四七万一〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年七月一日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告の被告内藤春雄に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告半沢栄策、同油田孝逸との間においては、原告に生じた費用の三分の二を被告半沢栄策、同油田孝逸の連帯負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告内藤春雄との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し各自金六四七万一〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年七月一日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張する事実

一  請求原因

1  原告は昭和四八年三月一二日訴外東京工機株式会社(以下「訴外会社」という)に対し、原告所有の東芝機械株式会社製BT―一〇B(R)型中ぐり盤(機械番号六四四一)(以下「本件機械」という)を左記の条件で売渡す契約(以下「本件契約」という)をし、同年五月三一日本件機械を訴外会社に引渡した。

(1) 代金額 金一九六七万六〇〇〇円(本件機械引渡し後代金完済にいたるまでの日歩二銭七厘の利息を含む)

(2) 代金支払方法 本件機械引渡し後七箇月据置、三六箇月月賦払い(引渡しの三箇月後に訴外会社が振出す三六枚の約束手形による)

(3) 所有権移転時期 代金完済と同時

(4) 約定解除 訴外会社が支払不能の状態に陥った時には原告は無催告で解除し得る

2  訴外会社は昭和四八年一二月から同五〇年二月まで一五回にわたり計八二〇万五〇〇〇円を支払ったのみであるところ、原告は訴外会社が支払不能の状態に陥ったため、同五〇年三月二六日前記約定に基づいて訴外会社に契約解除の意思表示をなし、右意思表示はそのころ訴外会社に到達した。

3  訴外会社代表取締役の被告半沢栄策は、昭和五〇年四月一九日本件機械が原告の所有に属し被告半沢に何らの処分権限もないことを知りながら、その売却を被告油田孝逸および被告内藤春雄両名に委任した。

4  被告油田、同内藤両名は共謀のうえ右委任に基づいて、本件機械が原告の所有に属し被告半沢の右委任が無権限でなされたことを知りながら、同月二〇日ころ本件機械を訴外高山秀雄に売却した。

5  被告らの右行為によって、訴外高山秀雄は本件機械の所有権を取得した。仮に右訴外人が所有権を取得していないとしても、原告は本件機械を発見できず事実上原告のもとに回復するのは不可能である。

6  右契約解除により原告は訴外会社に対して売買残代金相当額金一一四七万一〇〇〇円の損害賠償請求権を有していたが、昭和五〇年三月二六日原告はこのうち五〇〇万円の損害賠償請求権を訴外東芝機械株式会社に譲渡したので、原告は訴外会社に対して六四七万一〇〇〇円の損害賠償請求権を有する。

7  本件契約は所有権留保条項付割賦販売契約で、その趣旨として、所有権留保は債権担保の目的で行なわれるものであり、契約解除時においては本件機械の換価による残代金相当額の損害賠償請求権への充当が予定されていたところ、被告らの右各行為により原告は金六四七万一〇〇〇円の損害賠償債権の支払いを受けられなくなった。

よって、原告は被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき各自金六四七万一〇〇〇円およびこれに対する右損害発生の後である昭和五〇年七月一日から完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告半沢の請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実のうち、訴外会社が原告主張の日に支払不能に陥ったことは否認し、その余は認める。

訴外会社は昭和四八年一二月から同五〇年二月まで売買代金を約定どおりに支払っており、契約解除当時まだ支払期が到来していなかった第一六回目(同年三月三一日)以降の割賦金の支払能力は十分あった。それは、訴外会社が東芝機械に対し同年三月二七日を支払期とする金三四〇万円の、同年四月二七日を支払期とする金三〇〇万円の合計六四〇万円の債権を有していたことその他当時の営業実績等からみて明らかである。

訴外会社は、原告が本件契約を解除した昭和五〇年三月二七日当時は支払不能の状態にはなかったが、その後同年四月一一日倒産するの止むなきにいたった。その原因は、原告が訴外会社の資金繰りが苦しいのを知って本件機械の売買代金の回収をあせり、訴外会社が支払不能の状態に陥ってないにもかかわらず本件契約を解除し、その結果金一一四七万一〇〇〇円の損害を蒙ったとしてそのうち金五〇〇万円の損害賠償請求権を東芝機械へ譲渡したため、訴外会社が東芝機械に対して有する同年三月二七日を支払日とする金三四〇万円の債権の支払が為されなかったからであり、また、原告の山辺部長が訴外会社の取引先である訴外三五商事株式会社の社長に対し「訴外会社はもう駄目だから気を付ける様に」との連絡をしたため、右訴外三五商事から同年四月二日ころまでに訴外会社へ支払われる予定の取引代金五〇〇万円の支払も行なわれなくなり、訴外会社の資金繰りに狂いが生じたからである。したがって、原告が本件機械の所有権を主張して損害賠償を請求することは許されない。

3  請求原因3の事実のうち、被告半沢が訴外会社の代表取締役であることは認め、その余は否認する。

4  請求原因4、5の事実は不知。

5  請求原因6の事実は否認する。

6  請求原因7の事実は不知。

本件契約において原告が本件機械の所有権を代金完済まで留保するのは売買代金を確保するためのものであってそれ以上に出ない。そして原告は本件契約を解除したのであるから本件機械の所有権を主張し直ちにその返還を求め得るし、もし解除当時の本件機械の時価が売買残代金より低ければその差額を訴外会社に対し損害賠償として求め得るのであって、それ以上に損害はない。ところが、原告はあえて解除により売買残代金額相当の損害を受けたとしてその賠償を訴外会社に請求したのであり、その請求額の中には本件機械の時価に相当する損害分が含まれているものと解せざるを得ないから、原告は右損害賠償請求権を行使した時点で、本件機械の所有権そのものに対する追求権を喪失したものと解すべきことになる。したがって、仮に被告半沢栄策が本件機械を第三者に処分したとしても原告に何らの損害は生じない。

原告が本件機械の所有権そのものに対する追求権を喪失していないとしても、本件機械の如き大型工作機械は所有権留保の割賦販売契約であるのが業界の常識でありかつ本件機械については「所有者千代田組」と記入されているのであるから、これを第三者が即時取得し得るものでなく、原告は本件機械の所有権を喪失していないのであるから何ら損害はない。

原告が損害を受けたとしても、その額は金五一三万八一一九円である。

本件機械の売買代金および支払方法は、現金価格が金一六三七万九〇〇〇円、金利は日歩二銭七厘で昭和五一年一一月三〇日を最終日とする三六回の元利均等割賦払いであるが、割賦期間において契約が解除された場合には解除後の残存期間についての金利の請求し得ないと解するのが相当である。そうすると、原告が訴外会社に請求できる損害額は現金価格に解除時点である昭和五〇年三月末日までの日歩二銭七厘の金利を加えたものから現実に訴外会社が原告に支払った割賦金の合計額を控除した残額であるから、金一〇一三万八一一九円となる。そして原告は金五〇〇万円を債権譲渡しているから、結局残額は金五一三万八一一九円となる。

三  被告油田孝逸、同内藤春雄の答弁

1  請求原因1の事実のうち、訴外会社が原告より本件機械を買い受けたことは認め、その余は不知。

2  請求原因2の事実のうち、売買残代金があったことは認め、その余は不知。

3  請求原因3の事実は否認する。被告半沢栄策が被告油田孝逸に依頼したのは本件機械の売却の斡旋であって売却の委任ではない。被告内藤春雄は本件には一切関与していない。

4  請求原因4の事実は否認する。

5  請求原因5、6、7の事実は不知。

被告油田は訴外高岡工機株式会社の代表取締役、被告内藤は訴外内藤鋼材株式会社の代表取締役をしており、右両社は訴外会社と取引関係にあり債権を有していた。

昭和五〇年四月二日の債権者の集まりで訴外会社の代表取締役であった被告半沢は、原告の一方的解除と損害賠償債権の東芝機械への債権譲渡のため訴外会社の資金繰りが苦しくなっているので手形の支払期日を三箇月猶予することを要請し、右両者を含め出席した債権者全員が支払延期に同意した。

その後原告が訴外会社の取引先にも同社が倒産すると吹聴したため取引先から同年四月初旬に入金の予定だった金五〇〇万円も支払われなくなったことなどもあり、訴外会社は同年四月五日不渡手形を出すに至った。

そして、四月中旬ころ債権者会議が開催され、高岡工機、内藤鋼材ほか二社が債権者委員に選任されると共に会社資産を売却する決議がなされた。そこで被告油田は知り合いの訴外清信機械を紹介して訴外会社の機械類の見積りをさせた。

原告はその後も本件機械を引き上げようとしてトラックで訴外会社へ乗りつけ同社の従業員とトラブルをひきおこしたりしたなど、他の債権者を無視した強引な債権回収方法を計ったので、被告半沢は本件機械をも売却して未払給料、解雇手当の支払および協力してくれた他の債権者にいくらかでも分配しようと決意し、訴外清信機械に本件機械を含む一切の機械を売却した。

このような経過によって本件機械が売却されたのであるから、被告油田、同内藤が本件機械を売却したものとはいえない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が訴外会社に本件機械を原告主張の約定で売渡した事実は、原告と被告半沢との間で争いがなく、被告油田、同内藤との間では《証拠省略》によってこれを認めることができる。

二  原告主張の約定解除について判断するに、《証拠省略》を総合すれば次の事実が認められる。

訴外会社は資金繰りが苦しくなったので債権者に手形の支払延期を要請することになり、昭和五〇年三月一九日訴外会社福島専務が原告へ電話して本件機械の第一六回目の割賦金支払にあたる同年三月末日満期の約束手形の支払を三箇月猶予してほしい旨依頼した。そこで同月二〇日原告第一機械営業部小立部長、同会計課露口主任、同第一機械営業部橋本健次郎課長は、横浜東急ホテルのロビーで訴外会社の代表取締役である被告半沢と同社専務の福島に会い、資金繰りの見通しを質したところ、次のような説明がなされた。

訴外会社が四月に決済する一〇〇〇万円のうち三〇〇万円の支払は見通しが立たず、五月の二〇〇〇万円のうち一二〇〇万円、六月の二〇〇〇万円のうち一二〇〇万円、七月の一七五〇万円のうち九五〇万円がそれぞれ支払の見通しが立っていない。また、五月から七月までの支払で決済の見通しが立っている八〇〇万円の内容は、機械の修理代金であり、機械のユーザーが修理に出すことを予定に入れての金額であるので確定したものではない。見通しの立たない部分については新規事業の小型標準台車を三五商事に販売することを交渉中だが、今までに二台しか販売の実績はなく仮に五〇〇台販売できたとしても五〇〇万円にしかならない。他に銀行、公庫からの借り入れもうまくいっていない。

そこで原告は、本件機械の代金支払は今まで一五回については約束どおり支払われてきたがこの先の支払が確実に行なわれることに危惧を感じ、「昭和四八年五月納入、東芝機械(株)製BT―一〇B(R)型横中ぐり盤に対する代金決済が不能の状態に陥ったと認められる為、本機を所有者(株)千代田組に引渡す事を承諾致します。」旨の記載のある引渡し承諾書に被告半沢の署名押印を求め、前記橋本健次郎が、機械の所有権が原告にあることを確認するだけであるから、訴外会社で使用を続けてよく、万一の場合は引き渡してほしいだけで他意はないと述べたので、被告半沢は右書面に署名指印した。

そこで、原告は訴外会社が支払不能の状態に陥ったと判断して本件契約の解除の意思表示を訴外会社になし、同時に解除により残代金相当額の金一三四七万一〇〇〇円の損害賠償債権が生じたとしてそのうち五〇〇万円を東芝機械へ譲渡した。

訴外会社は東芝機械に対して三月末日までに支払の金三四〇万円の債権および四月末日支払の金三〇〇万円の債権を有していたが、右債権譲渡により三月二七日には支払われる予定だった三四〇万円が東芝機械から支払われなくなった。

他方訴外会社は他の債権者へも手形の支払期日の延期を要請するため昭和五〇年四月二日債権者一四~一五社に集まってもらい、被告半沢が手形の支払期日を三箇月猶予することを依頼し、出席した債権者全員の同意を得た。一四~一五社の債権総額は四月から六月までの間各月五〇〇万円前後であった。

しかし訴外会社は四月五日に第一回目の不渡手形を出し、四月一一日に第二回目の不渡手形を出して倒産した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。これらの認定事実からすると、訴外会社は昭和五〇年三月二〇日ころには同年四月以降の資金繰りが非常に苦しくなり債権者に手形の支払を延期してもらわねば四月五日に不渡手形を出すのが必至という状態にあったということができる。

三  《証拠省略》によれば、訴外会社が割賦金及び利息の支払を怠った時のほか、訴外会社が支払を停止しもしくは支払不能の状態に陥った時には原告は催告を要することなく契約を解除できる旨の約定がなされていたことが認められ、本件では、支払不能の状態に陥ったか否かが争われている。

前記認定事実のように、訴外会社は昭和五〇年二月末日満期の手形支払まで計一五回の割賦金支払を一度の不履行もなく続けていたものであるが、割賦金支払の懈怠のほかさらに支払不能の状態を解除条項に明記した契約の趣旨からいって、債務不履行が今まで一度もなかったから支払不能の状態に陥っていないということはできず、四月に決済する一〇〇〇万円のうち三〇〇万円の支払が見通しが立たず、債権者に手形の支払延期を要請しなければ四月五日に不渡手形が出ることが必至であったことからすると右契約解除当時、訴外会社が支払不能の状態に陥っていたものといって差支えないであろう。

《証拠省略》によれば、原告の訴外会社に対する本件契約解除の意思表示は昭和五〇年三月二七日到達したことが認められる。したがって、本件契約は三月二七日に解除されたことになる。

四  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

本件契約を解除した原告は、本件機械の引渡を訴外会社に求め、四月七日にはレッカー車とトラック二台で本件機械を引取りにいったが引渡しを受けることはできず、返還の交渉を続けていた。

一方、四月一二日に訴外会社で行なわれた債権者会議では、訴外会社の債権債務額や資産についての説明が訴外会社の福島専務からなされ、三〇社か四〇社位集まった債権者から強引に債権回収をはかる原告に対して強い不満が出されて本件機械を原告に渡すわけにはいかないということでその場の話はまとまり、債権者委員として高岡工機、坂下商店、内藤鋼材、土屋エンジニアリングの四社を選んで解散した。

その後高岡工機の代表取締役である被告油田は取引先の清信機械に本件機械を含む訴外会社の機械類を見積らせた。被告半沢は四月四日に狭心症で倒れて入院していたが四月一九日に退院したので、同日被告油田は清信機械の者と共に被告半沢に会い金八五〇万円を機械類の見積り額として報告し、被告半沢と被告油田の間でこれら機械類を清信機械に売ってその代金を従業員と債権者に分配することを計画した。その際清信機械は買受けた機械類をトラブルなく搬出できるよう従業員等を説得するための書面を書いてくれるよう求め、被告半沢が「東京工機(株)相模原第一工場、第二工場の機械類一式の処理方の一切を従業員及債権者の皆様に御一任致します」との記載のある委任状を交付した。翌二〇日清信機械は本件機械を含む機械類を搬出し、二一日被告油田は清信機械から現金八五〇万円を受け取り、そのうち三〇〇万円を従業員の賃金と解雇手当として被告半沢に渡し、残額を被告油田の名で銀行に預金しその後計算して各債権者に債権額の七パーセントずつを分配した。

内藤鋼材の代表取締役である被告内藤は会社の仕事を息子の訴外内藤公男と従業員の訴外向井義造にまかせており、訴外会社が不渡手形を前す前に被告半沢と二度ほど会って資金繰りの相談を受けたことはあるものの、不渡手形を出した後の債権者の集まりには訴外内藤公男が出席していて被告内藤は機械類の処分についての話を全く聞いていなかった。

以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

五  さて、本件契約において特約により売主が買主より代金の完済を受けるまで本件機械の所有権を留保することおよび本件契約が解除されたことから、本件機械の所有権を原告が有することは明らかであるところ、被告半沢、同油田の各供述によれば、被告半沢は本件機械の所有権が原告にあることを知りながら、本件機械を原告に渡すのに強く反対する被告油田ら債権者の意向を受けて訴外会社が本件機械を含む機械類一切を売却してその代金を債権者に分配することを企て、被告油田は本件機械の所有権が原告にあることを知りながら債権者委員として本件機械の売却に積極的に関与し買主を紹介し代金も自ら受け取り管理するなどの行為をしたことを認めることができる。

なお、前記四で認定した事実によれば、被告内藤は本件機械の売却には関与していないものというべきであり、他に同被告の関与を認め得る証拠はない。

六  《証拠省略》によれば、原告は右の本件機械の売却がなされたことにより、その所在をつかむことができず本件機械の時価相当額の損害を受けたこと、原告は本件機械を引取った場合には訴外石田精機に八〇〇万円で売却する予定であったことが認められ、また被告半沢の供述によれば、八五〇万円で売却した訴外会社の機械類は本件機械のほかに旋盤一〇台位、鋸盤二台、定盤三台程度があったものの、本件機械がもっとも価値のあるものと認められ、右認定事実によれば、原告が被った損害は原告が本訴において請求する金六四七万一〇〇〇円を下らないものと推認することができる。

七  なお、本件契約解除により原告は原状回復請求権として本件機械の返還を求め得るほか売買代金から支払済額と本件機械の時価相当額を控除した額の損害賠償請求権を有すると解し得るところ、被告半沢は、原告があえて売買残代金相当額の損害賠償を訴外会社に請求したのであるからその時点で本件機械の所有権そのものに対する追求権を喪失したとして争うが、原告に本件機械の所有権が帰属する以上、これを放棄する意思を明らかにしていない本件において原告が所有権を失うことはありえない。

また、前記二で認定した事実からすると、原告が訴外会社の資金繰りに非協力的で強引に債権回収をはかろうとし訴外会社を援助しようとする意思が全くなかったことは明らかであり、訴外会社の倒産した原因の一つとして原告の行為が考えられるにしても、原告が本件機械の所有権を主張することが著しく当事者間の衡平に反するということはできない。

さらに、被告半沢は、本件機械のような大型工作機械は所有権留保の割賦販売契約であるのが通例でかつ本件機械には原告名が所有者として記入されているのであるから、第三者は本件機械を即時取得しえず原告は所有権を喪失しないから損害はないとして争うが、本件機械を第三者が即時取得したかどうかについては判断の資料がないけれども、即時取得していないとしても、原告は被告半沢、同油田らの行為により実際に本件機械の所在が不明になり、その回収はもはや不能といえるのであるから本件機械の時価相当額の損害が生じていると解するについて妨げとはならない。

八  そうすると、原告が、被告半沢、同油田に対して各自金六四七万一〇〇〇円および損害発生の後である昭和五〇年七月一日から完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由があるから認容し、被告内藤に対する請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井筒宏成)

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